2025年10月03日

AI時代の新常識「スペック駆動開発」とは? Amazon Kiloの登場で変わる開発の未来

AIによるコーディングが当たり前になった今、多くの開発者がその恩恵を受ける一方で、新たな課題に直面しています。

「AIへの指示の出し方が人によってバラバラで、成果物の品質が安定しない」
「前回うまくいったプロンプトが、なぜか今回は機能しない」
「対話ログが膨大になり、後から設計の意図を振り返るのが困難」

こうしたAI開発の”無法地帯”ともいえる状況に、一つの答えを示したのが「スペック駆動開発」という新しい開発手法です。
これは、Amazon Bedrockの「Kilo」のようなツールの登場をきっかけに、急速に注目を集めています。

本記事では、この「スペック駆動開発」がどのようなもので、なぜ今重要なのかを、具体的なフローと共にご紹介します。

スペック駆動開発の基本原則

スペック駆動開発は、全く新しい技術というわけではなく、既存の技術やノウハウをAI時代に最適化した、いわば「AI開発の標準化されたワークフロー」です。
その根底にある原則は、極めてシンプルです。

「設計をじっくり行い、設計が完了するまでは実装しない」

これは、プロジェクト全体で一つの大きな計画を立てる従来のウォーターフォール開発とは異なり、機能単位で「設計→承認→実装」という小さなウォーターフォールを高速で回していくイメージに近いものです。

AIと人間の協業フロー:4つのステップ

スペック駆動開発のプロセスは、主に4つのステップで構成されます。各ステップでAIが生成したドキュメントを人間がレビューし、承認することで次のステップに進みます。

ステップ1:現状のインプット(ステアリング)

まず、AIにプロジェクトの現状を正確に認識させます。

  • AIへのインプット: プロジェクトの目的、既存のソースコード、技術スタックなど。
  • AIの成果物: プロジェクト概要、コーディングルール、使用技術一覧などをまとめたドキュメント。
  • 人間の役割: 内容を確認し、AIの認識が正しいかをレビュー・承認します。

ステップ2:要件定義(リクワイアメント)

次に、実装したい機能の要件を定義します。

  • AIへのインプット: 「メールアドレスとパスワードでログインする機能」といった、最初は漠然とした指示でも問題ありません。
  • AIの成果物: 指示を元に、AIが一般的なベストプラクティスを加えて詳細な機能要件やユーザーシナリオを記述したドキュメントを生成します。
  • 人間の役割: AIが生成した要件定義書をレビューし、不足している仕様(例:「同時認証は許可しない」など)を追記・修正させ、承認します。

ステップ3:機能設計(デザイン)

承認された要件定義を元に、AIが具体的な機能設計書を作成します。

  • AIの成果物: アーキテクチャ、技術スタックの選定、処理フロー図など、詳細な設計ドキュメントを生成します。
  • 人間の役割: ここでのレビューが最も重要です。「なぜこの技術を選んだのか?」「このフローで問題ないか?」といった対話をAIと重ね、設計の解像度を上げていきます。設計に納得できたら承認します。

ステップ4:実装計画と実装(タスク)

最後に、設計書を元にAIが実装計画を立て、コーディングを実行します。

  • AIの成果物: 設計書を実装可能な小さなタスクに分解し、実装計画書を作成します。その後、計画に沿って一つずつ、テスト駆動でコードを生成・実行します。
  • 人間の役割: 最終的なコードをレビューします。必要であれば直接コードを修正することも可能です。人間が修正したコードは、AIが検知して設計書へ逆反映させることもできます。

なぜスペック駆動開発は有効なのか?


この一見すると手間のかかる手法が、なぜAI時代の最適解なのでしょうか。

  1. 「設計書」という確実な記録が残る
    対話ログを探し回る必要はなく、AIが何を根拠に実装したのかが明確なドキュメントとして残ります。
  2. コンテキスト上限問題を解決できる
    タスクを細かく分割し、工程ごとにコンテキストをクリアできるため、AIが「物忘れ」することなく、大規模な開発でも最後まで安定して動作します。
  3. 開発ルールを統一できる
    個人のプロンプトの工夫といった属人性を減らし、チーム全体で開発の進め方を標準化できます。
  4. 中断・再開が容易
    進捗はすべてファイルベースで管理されるため、PCを再起動したり、一日作業を中断したりしても、すぐに元の状態から再開できます。

おすすめのツールとAI

このスペック駆動開発を実現するため、現在様々なツールが登場しています。

  • Amazon Kilo: IDE(VS Code)に統合されており操作しやすいが、招待制で利用できるモデルも限定的。
  • GitHub Spec Kit: 開発は活発だが、まだ機能不足で動作が不安定な面も。
  • CC-SSD: 国産でKiloと互換性があり、シンプルで学習コストが低いため、最初に試すなら最もおすすめ。

そして、このワークフローを支えるAIとして、現状ではClaude CodeのOpusモデルが最適です。これは、モデルの優秀さに加え、CLIツールとしてのエコシステムが非常に充実しており、外部ツールとの連携や自動化を容易にするためです。

まとめ:エンジニアの価値は「設計力」と「レビュー力」へ


スペック駆動開発の登場は、エンジニアの役割が「コードを書く人」から、AIが生成した設計書やコードを的確にレビューし、導く「監督者」へと変わっていくことを明確に示しています。
AIに的確な指示を出し、その成果物を評価するための「設計力」こそが、これからのエンジニアにとって最も重要なスキルとなるでしょう。


役に立ったら、記事をシェアしてください